6/17(水) Dinosaur.Jr "Farm"!!!

■Dinosaur.JrのDriveセンス

ついに、6/17(水)、Dinosaur.Jr のニューアルバム"Farm"が日本先行発売される。

ここ1週間ほど、なぜ日本がこれほどまでに立ち後れてしまったのかについて、いろいろ本を読みながら考えている。東京がサンフランシスコではなかったからだ、というのが、とりあえずの結論なのだが、小説にそれを突っ込んでいかないと考えが先まで伸びてゆかないので、まだくらくらする頭で書き進めるしかない。

手持ちの素材はあるが、それを取りまとめて練ってみないとどこに行き着くか分からない、という状況は、心身ともに非常に負荷がかかる。何より、それを共有できないことが、一層の孤独を余儀なくさせる。

2000年代になり、ITやその他のテクノロジーの発達によって、DIYの精神が復活した。取り回しに優れ、かつてない精度と飛距離を備えたカウンターカルチャーのためのウェポンの出現と普及が、80年代は限定的であったNO WAVE/NYパンクの精神/行為の体現者を、世界中に生み出している。
だから、元ヒッピーのスティーブ・ジョブスgoogleが作り上げたツールを使って、表現を行い、政治にコミットし、あるいはそのツールを持つ(とりあえずは先進国の)人々とコミュニケーションを取るのである。

その意味で、「ヒーロー」となるような、カウンターカルチャーの担い手が、日本には本当に少ない。ベテランバンドの再結成、復活が欧米でも日本でも近年話題だが、彼らが尊敬をされず、Sonic YouthやDinosaur.Jrが世界中から支持されている根本的な差は、カウンターカルチャーの担い手として、自らを継続的にUpdate出来たか、否かではないだろうか。

Dinosaur Jr. "Over It" video from the new album "Farm"

Dinosaur.Jrは、J Mascis、Murph、Lou Barlowのオリジナルメンバーで復活を果たした前作を経て、2009年2月、インディー・レーベルのJagjaguwarに移籍した。Pitchfork(http://pitchfork.com/)(今はTOPページ下部に彼らのコンテンツの特集枠がある)でのJ所有のホームスタジオでの新曲レコーディング風景を見て、前作よりもより上り調子になってきているなと、安心し、また興奮していたのだが、ニューアルバムからの先行シングルのミュージックビデオは、スパイク・ジョーンズが撮影し、彼らのみならず90年代を代表するミュージックビデオの1本となった"Feel The Pain"に劣らない、勢いやスピードが印象的で、彼らの"Drive"感覚が顕在であることが分かる。

復活後のライブDVDで、Kevin Shields、Kim Gordon、Thurston Mooreなど交遊のあるミュージシャンのインタビューが収録されている。
Dinosaur.Jrが1983年の結成以来、ロックシーンのトップを疾走出来た理由は、ある種、古典的なサウンドだが、アップデートを怠らないことで、彼ら特有のドライブ感と爆発力を失わなかったことにあることが、友人たちから異口同音に語られていて興味深い。

Live in the Middle East
http://www.amazon.co.jp/%E3%83%A9%E3%82%A4%E3%83%B4%E3%83%BB%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%83%BB%E3%82%B6%E3%83%BB%E3%83%9F%E3%83%89%E3%83%AB%E3%83%BB%E3%82%A4%E3%83%BC%E3%82%B9%E3%83%88-DVD-%E3%83%80%E3%82%A4%E3%83%8A%E3%82%BD%E3%83%BCJr/dp/B000P1KPYA/ref=sr_1_3?ie=UTF8&s=music&qid=1245056907&sr=1-3

Murphのタイトなドラミングと、JのラムズヘッドBig Muffを踏み込んだ時の爆発力、そしてそのふたつの暴風雨をさらにかき乱すLouのリッケンバッカーのベースは、MC5やストゥージーズ、ブルーチアー、ハードコア、オルタナティブを経由して、ますます研ぎすまされ、Sonic Youthが"Teenage Riot"を全く古びることなく演奏するように、初期の代表曲である"Forget The Swan"を、ライブだけでなくTVショーでもいとも簡単に鳴らすのである。特に、4分30秒過ぎからのJのギターソロは、初期のDinosaur.Jrのライブを見に行った際に、Thurstomがそうだったように、ジミ・ヘンドリックスを想起せざるを得ない、エモーショナルなサウンドだ。

Dinosaur Jr --"Forget The Swan"@Henry Rollins Show

40代半ばの彼らが、10代のキッズと同じようにスケートボードやBMXを颯爽と乗りこなしているのはどうかは分からない。スタントの有無よりも重要なのは、彼らが、今の自分たちの姿を、低予算でミュージックビデオにしたものが、メジャーレーベル所属時に、彼ら史上、最大の予算を投じたであろう"Feel the Pain"のドライブ感とサウンドに遜色ないクオリティに仕上げている、ということではないだろうか。

Been There All The Time - Dinosaur Jr.
http://www.youtube.com/watch?v=G7MdJPSqtCw
ちなみに、前作のシングルの1曲である上記のミュージックビデオは、恐らくThurstomの自宅で撮影されている。そして、Kimの赤いジャガーを抱えてガチャガチャと鳴らしているのは、言うまでもなくThurstonとKim夫妻の愛娘、ココちゃんである。鳴き声をSYRのレコードに吹き込んでいたあの赤ん坊が、こんなに大きくなったのだ。Thurstonの風貌の変化のなさも凄いが。出演料などむろん取っていないであろうから、究極の低予算撮影である。

Dinosaur.Jrのミュージックビデオに乗り物が登場するとき、"Feel The Pain"のマンハッタンを疾走するゴルフカートや、"Over It"で(多分ツアー中のどこかの)ストリートや公園を走るスケートボードやBMXといった、小回りのきく乗り物を好き勝手に乗り回すスピード感が、とても心地よい。だが、それを自由にDriveさせることは、それほど容易いことではない。それを失ってはならないと「Drive/駆り立てる」感覚を25年に渡って保ち続けることで、彼らの遥か後ろを走っていた大半のバンドたちがもはや視界にすら入らなくなっていることを考えると、それは尋常ではない。Tommy Guerreroが語るように、ちょっとした失敗ですぐにアスファルトに叩き付けられるスケートボードに、10代の頃と同じように乗り続けるということは、ひどくタフなことだ。

恐ろしくセンスが良く、それをさらに磨き続けてきたDinosaur.Jrは、希有なバンドである。