また会う日まで (和書)/3

2007年05月06日 23:43

河出書房新社
柴崎 友香

舞台は東京に移っても、柴崎友香の文章の巧みさと緩い時間感覚は見事に保たれている。生活だとか未来に対する、ほっとするような小さい希望もある。

小説でしか表現できない感覚、特に言葉として整理するとするりと逃げてしまう感覚や、目の前で流れている時間や状況。不確かなものを、いかに文ですくい取るのか、という実践の成果だと思う。

「大学のころ、初めて人が持ってきたデジタルカメラの液晶画面を見たとき、そこに写っているのは今の瞬間なのに前に録ったビデオを見ているような、というよりも、その画面を通して見る周りのものが、もうすでに『思い出』の一場面になってしまったような感じがして、それだけが理由ではないけれど、あの感覚を思い出すとなかなかデジタルカメラを手にできない。」
カメラのファインダーを除いた瞬間に、素晴らしいバンドの演奏に身を任せた瞬間に、観光客が東京タワーの展望台からガラス越しに映すデジタルカメラの液晶画面を見た瞬間に、するりと逃げてしまうもの。
それが出てきた瞬間を、あるいは出てくる瞬間を見逃さないよう、柴崎友香は、するすると涼しい顔をして緻密に文を張り巡らせる。

ふと、フィッシュマンズの時間感覚が、非常に合うと思った。でもそれって、90年代的ということなんだろうか?