音楽不況・ダサイ奴は放っておけ/From the Basement (Dol Dts Dig Eco) [DVD] [Import]

4/16(木)日経新聞の朝刊に、音楽業界の不況に関する記事が掲載されていた。
CD販売の低迷を打破するために、レコード会社各社は、新人発掘などのマネジメント事業を強化しているとのことだ。2002年から2008年までの国内のCD販売の推移グラフによると、2002年は邦楽が3000億円以上、洋楽は1000億以上を売り上げていた。2008年は邦楽が2300億程度、洋楽は600億程度となっている。

僕個人のことを考えると、2002年よりもCDを買う量はむしろ増えたと思う。2002年はまだ学生だったため、お金に余裕がなかったためだ。今週も、CD3枚、DVD1枚を購入した。

サウンド&レコーディング・マガジン 2009年5月号(http://www.rittor-music.co.jp/hp/sr/)をパラパラとめくっていると、巻頭特集の「松田聖子中森明菜山下久美子、森進一......計115曲を収録したボックス・セットからみる職業作曲家・細野晴臣」の最後で、細野さんが、もう自分はJ-POPのことは分からない、といったようなことを語っていた。J-POPに見切りを付けたような内容だったと思う。(パラパラと読んだだけなので・・・)

僕は、邦楽のCDについては、年に数枚しか買わない。いいものがあれば買うつもりなのだが、食指はなかなか動かない。
特にJ-POP以外の、かつて洋楽ファンが聞いたような邦楽バンドというか、「ロックバンド」の地盤沈下が激しい。
ロックは、非常に単純な音楽だから、作り手の知性・感性・技術がダイレクトに出てしまう。
山本精一が、90年代にわざわざギターマガジンのインタビューで、本を読まない奴は信用しない、といったことを話していた。邦楽のロックミュージシャンで、まともに本を読んでいそうな人は、本当に少ない。それは、端的に歌詞を読めば分かる。ろくに本を読んでいないミュージシャンの書く歌詞は、中学生レベルなので読むに耐えない。

もちろん、洋楽もそうした地盤沈下が起きていると思う。新作を心待ちにする新人ミュージシャンといわれて、ぱっと思いつくのは、Derek Trucks Bandだが、彼らのデビューは1997年であり、デレクはそもそも10代から活動しているので、新人にはあたらないかも知れない。

月曜日に2月分の休職手当を頂いて、お金に余裕が出来た。買う事が出来ずにいたDerek Trucks Bandの"Already Free"を買いに、タワーレコード渋谷店の3階に行ったところ、レジの横のモニターで、The White Stripesが、"Blue Orchid"を演奏するDVDを流していた。

From the basement: Blue Orchid
http://www.youtube.com/watch?v=BgdevzEGAnY&feature=related

"From the Basement (Dol Dts Dig Eco)"という輸入版DVDの販促のためだ。かなりのスペースを割り当てて、このDVDを押していた。出演バンドは、Radiohead,Sonic Youth,PJ Harvey,Beckなど。英米のトップバンドばかりだ。Nigel Godrichがプロデュースしているので、これだけの面子が集まったのだ。僕は、レジで順番待ちをしていたのだが、そのコーナーから1枚手に取り、迷わず購入した。DVDの10%引きセール中だったため、2500円くらいだった。本当に「お買い得」だ。

タワーレコードのこのDVDのURLが見つからないので、こちらを紹介。)
http://www.amazon.co.jp/Basement-Dol-Dts-Dig-Eco/dp/B001QERPUW/ref=sr_1_1?ie=UTF8&s=dvd&qid=1239893138&sr=8-1

Radioheadの演奏から始まるこのDVDは、最近観たライブ映像のなかでも、抜群にいいものばかりだ。
個人的に、最も興奮したのは、2006年の"Rather Ripped"を買い逃していたSonic Youthの演奏だ。
2000年の"NYC Ghosts & Flowers NYC"以降、彼らはどんどん良くなって来ていると思う。90年代よりもいい。

以下は、You tubeにあがっていたものだ。
Sonic Youth - The Sprawl (From The Basement)
http://www.youtube.com/watch?v=GeLe5GD7hlo&feature=related

Sonic Youthは、1999年6月に彼らの命でもある徹底的にカスタマイズされた機材の盗難あった。20年に渡り音を委ねてきた「媒介」の喪失により、再生を余儀なくされたことで、図らずも20世紀から21世紀へと一足先に移行をすることとなった。その祖であるボードレールに顕著なように近代詩以降、詩は都市とともにあった。詩人は、先達の詩において都市を発見し、自らもまた都市生活者となることで、子供であることを捨て、都市の詩人へと脱却するのである。"NYC Ghosts & Flowers NYC"の1曲目、"Free City Rhymes"を書いたことで、Sonic Youthは2000年代以降、とりわけ9.11以後のNYにおける最も重要なロックバンドになったと僕は考えている。Sonic Youthが"blown soundscapes blue city eyes"によって発見した都市とそこに生きる自らの生とは、"ghosts passing time"、"black lightning new angel flies"、"ghosts burn to shine"、"holy rain falls"という、光と雨の中で過去が呼び起こされ、回復を果たし、という循環によって再生を繰り返し続ける姿である。破壊されつくした"The City"の、Dryで空虚な空間に、ビートニクや亡くなっていった先達のGhostsたちを召還して、涙の雨を降らせて、世界中の"The City"に生きる若者たちの乾き/渇きを(一時でも)満たしてくれた彼らは、世紀の横断をいち早く成し遂げただけでなく、9.11以後の都市で生き抜く方法を、再生を果たした音と言葉によって私たちに届けてくれた、ということだ。1981年から脈々と活動を継続して、世界中のロックファン、ロックミュージシャン、クリエイターから尊敬され続けている、知性と感性と技術に卓越した彼らだからこそ成し遂げたまさに「マジック」だ。(そして、ジム・オルークの抜けた穴を埋めて、キムの後ろでニコニコとベースを弾いているのは、なんとPavementのマークだった(笑)!油を売ってないで、早くPavementを再結成して下さい!)

来日公演を終えたばかりのBeckも素晴らしいグルーヴを聞かせてくれている。(DVDの収録は2007年のようだが・・・)
続いて、Beckバンドのリズムセクションとして参加しているJamie Lidell。ボイス・パーカッションをリアルタイムでサンプリングしてトラックを作ってゆくという驚愕のパフォーマンスを披露している。彼のことは今回初めて知ったが、ワープ所属らしい。トレンチコートにボストンメガネと無精髭という格好が、ケルアックやギンズバーグを彷彿とさせる。しかし、Beckの時には白いタオル、ソロの時は青いタオルを首にぶら下げている。何故?2000代のビートニクの末裔は、ラップをするから汗をかく、ということか(笑)?HipHopは、もちろんビートニクの影響を受けているスタイルだと思うが、なかなかルックスからしてそれ、というのは珍しいのでは?でも、とてもかっこいい!

Jamie Lidell - The City
http://www.youtube.com/watch?v=y1oAkvH8TtU

買ってから、上記のバンドを中心に、何度繰り返して見たか分からないくらい見続けているが、全く飽きることがない。

ネットで見ることが出来るこれらのライブは、映像も音も物凄く質が悪い。
だが、タワーレコード渋谷店に行っていない人にも、魅力の一端に触れることが出来たのではないかと思う。

レコード会社は、新人の発掘・育成に躍起になっているようだが、ロック好きをタワーレコードに連れていって、この販促コーナーを見させるようなプロモーションも行うべきだと思う。

この映像を店頭モニターで見て、レジに持って行かない奴は、2000年代のロックとは縁がない。
これに反応出来ないロックファンは、鈍い。
そう自信を持って断言していい作品のクオリティだ。
そして悲しいことだが、こうしたレベルのライブを行うことが出来るバンドが今非常に少ないのは、ミュージシャンの質が落ちたからだ。
知性も感性も技術もない者に、人の心を打つ強度を持ったパフォーマンスなど出来るはずがない。いうまでもないことだが、言っても分からない洞察力の欠如した人たちが、20代以下の若者に多過ぎる。

音楽不況に、ネットの普及が打撃を与えたことは事実だろう。
だが、もっと単純に、ロックファンもミュージシャンも、ダサイ奴が増えたのではないだろうか。

常々思っていたことを、再確認した次第だ。
この素晴らしいライブのラストは、Thom Yorkeの"Videotape"だ。アップライトピアノで弾き語りを行う彼の右足のスニーカーの踵が微かに刻み続けるコツコツコツ、というビート。これに感動出来ないロックファンは、凄く残念だ。もちろんこんな小さな音は、劣化が激しいネットの粗い音質では捉えることが出来ない。実際にDVDを自分で買った人は、この曲で2000年代のロックのビートの濃密で確かな震えを体感することが出来るはずだ。

また、個人的には、久しぶりに触れたSonic Youthの曲の質感と、僕が今作っている曲のそれとが近かったことも、非常に勇気付けられた。コード進行や歌詞が似ている、という訳ではない。(というか、似ていない。)例えば、ファッションでいえば90年代と2009年のトレンドがはっきりと異なるように、パッと見ただけで掴める、その時代特有の「空気」を感じさせるものというか。そういう意味での、2000年代後半のロックの持つテクスチャーを、僕自身の音が共有していたことがとても嬉しかった。
小説を仕上げた後に、アルバムを作る予定なので、(ひっそりと)世に問うまでには半年くらいかかってしまうだろう。
しかし、このDVDを買った人であれば少しは食指を動かしてもらえる内容になると、自分では確信している。