テレビはつまらないから視聴率が落ちた/思い出し半笑い

nobody 30号の濱口竜介佐藤央というまだ30歳の若い監督二人が、スタジオシステム全盛の頃の撮影/編集技術について語り合い、あるいは昭和一桁生まれのNHKディレクターの主に取材先での奇妙な経験もさることながら、それを巧みに語る構成力の見事さといったものを読むと、テレビ制作者たちが単に映像を扱うことに関しての研究をせず、またろくな素材(取材映像)も構成力も持ち合わせていないからではないか、と思えて仕方がない。

テレビドラマをはじめ、テレビの視聴率がガタガタで、広告出稿もドカドカ引き上げられているというが、そんなものは自業自得だ。そうに違いない。

思い出し半笑い/吉田直哉
初版は1984年だが、『1Q84』の100倍面白くて文章も巧みだと思う。凄いなぁ。しかも本業ではないのに・・・。最近の小説家など遠くに霞んでしまう。

特に、「わが家を走り抜けた泥棒」は、名人の落語のようで舌を巻いてしまう。

 バカとホコリは、高いところへあがりたがるという。
実際、高いところへ上がって下を見おろしながらニタニタしているのに、利口そおうなのはあまりいないのだが、どうも私はその典型らしく、何よりヘリコプターが好きで、大地を離れて上昇するにつれて顔のしまりがぜんぶ無くなり、ニカニカ、ウヒウヒ、ついには声さえ立てて笑いそうになるのだから、ほとんどビョーキである。
 しかし、馬鹿笑いするためにヘリに搭乗するのではなくて、撮影が目的でカメラマンといっしょに乗るのだから、残念ながら、むやみに高く上がるわけには行かない。

と始まるこのエッセイの構成の巧みさは、書き手がナルシシズムからほど遠いところにいるからである。日本の私小説の大半が面白くない理由は、周囲のことがとんと見えていない連中ばかりだからであり、まぁ自分がバカだという意識すら持てないそんなものは、塵となって地上に降りてこないか、ちり紙交換に出されるか、どちらかなので、どうでもいいのだが。

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最近、読んで面白いと思う小説は、大抵が海外の作家によるもだ。引きこもり気味の中年オヤジや恐ろしく何も知らない若者の自意識/無意識ではなく、現実の出来事、現実の場所といった外部が反映されているところは、邦楽(インディーズを含む)と洋楽の差にそのままスライドする。