耳をすませば (DVD)/3

2006年08月21日 02:47

数年振りに見た。見て驚いた。緻密な構成が見事。
軸は二つあると思う。水平運動と垂直運動が雫と聖司の関係を動かし、「旅立つ」というテーマに向かって、作品全体が進んでゆく。
 少女と少年は、水平運動と垂直運動を繰り返しながら、お互いの距離を物理的・心理的に縮め、お互いの進むべき道を確認し合う。

 雫は、聖司に「コンクリート・ロード」を笑われた後、坂を下りながら「やなヤツ、やなヤツ、やなヤツ」と彼から遠ざかってゆき、猫に導かれて、京王線で滑るように彼の住む街へと降り立ち、ねじ曲がった坂を上って、彼の家にたどり着く。
聖司の家の外の階段を下りて、その見事な景色に心打たれ、バロンを見終わり、室内の階段を降り、彼がバイオリン作りをしていることに驚く。図書カードの聖司と「コンクリート・ロード」の聖司と、バイオリン職人を目指す聖司とが同じであることが分かったとき、作品冒頭で聖司の家からと思しき街を俯瞰するアングルの夜景と共に流れた「カントリー・ロード」が、再び歌われる。「天沢聖司」と少年が名乗るとき、ちょうど時計は1時間経過している。

 前半1時間が、「天沢聖司とは誰か」、という問いだとすれば、後半1時間は、「天沢聖司に近づくことができるのか」という実践だとも言える。理想や成長の存在を諭すかのような少年との出会いにより、少女は自らを、そして目指すべきものを見つめ直す。
 聖司は雫を教室の外や早朝の団地の室外へと呼び出し、廊下や道路を二人で共に移動し、階段や坂道を昇る。そうしてたどり着いた屋上や二人だけの高台で、雨雲や夜空が退いた後に顔を出した赤い空を見ながら、彼は進路を告げ、告白をするだろう。

 アニメマニアの人や、思春期の初恋を〜みたいな見方をする多くの人だけでなく、映画好きにも改めて見て欲しいと思った。
凄く質の高い作品です。