登戸のわたし



帰る前に、多摩川を飛ばしに飛ばした。
発明を抱え込んだ人の気持ちが少し分かった。
それは完璧に頭のなかにある。
でも取り出すには、目眩がする程の時間と努力が必要だ。
誰も信じてくれないのは仕方がない。だから、せめて励ましてくれる人が欲しかった。
でも、何とかやり遂げられそうだ。
あいつらに会いたくなったら、また弾爺やマァ爺に頼めばいい。
しかし、いい年した大人まで、Dinosaur.JrやSonic YouthPavementNIRVANAを買い込まなきゃならなくなるのは、少し笑えるよな。
著作権交渉は、編集者に任せよう。『クーリンチェ少年殺人事件』が最大の山場だと思うけど、いい機会を作ったのだから、最初で最後と思って関係者には全力を尽くしてもらいたい。
餅はついたんだから、そっちの餅屋の仕事を頑張って欲しい。
将来、翻訳してくれるようだと、その人は大変だよな。
主語を隠せる言葉で助かった。
『補助灯』は、楽器だけじゃなくて、英語と対訳も自分一人で済ますからいいけど。

それはそうと、帰らなきゃ。
仔猫が腹を空かしている。
ミルクがもう切れてるだろう。
ふれあい歩道というらしい小田急の駅の脇道をひた走る。
狛江駅の傾斜で、小さな縁日を開いていた。めでたいな。

ようやく世田谷通りに戻ると、もう夕方で薄暗かった。

この十年で、一匹目のネコの二周忌が終わり、官舎に住んでいた大蔵病院はしっかりと統廃合され、東宝スタジオ手前の高級スーパーはいつの間にか家具のアウトレットショップになっていた。

入り口付近は、きれいになったよな。

外国人受けは良さそうだ。

––「妻の心」では三船敏郎さんが珍しく現代劇で良くて。
高峰 そうそう。
––前に話してくれましたよね、三船さんがドブに・・・・・・。
そう。あの人ね、アガっちゃうのよ。それで二人が喋っているのを移動(カメラ)で撮ってる時、ドブに落っこっちゃった。私の顔見て喋らなきゃいけないところなのに、正面から目を見ないの。だから成瀬さんが「三船君、ちゃんと高峰さんの顔見て」って言ったら、三船さん、私の顔を見ながらジリジリ後じさりして、ドブへ落っこっちゃった。ヘヘッ、可笑しい人。アガっちゃう。

東宝は、高峰秀子のモニュメントを作ったのだろうか。見せて欲しいものだ。

店に入る前にサイダーを飲み、一息ついた。

2009 東宝 12番組共通前売券。12本もあるのに、どれも見たくならない。

ウィル・スミスがこの間ウォシュレットを買って帰ったように、ハリウッドのプロデューサーも、映画じゃなくてウォシュレットを買って帰るんじゃないかな。


店内をぐるぐる回って出てくると、もう夜だった。
Since 1932


これは古いままだよね。
ドブはまだあるのかな。