『四川のうた』/2回目/唖然・・・

蓮實さんが完璧過ぎて不吉というのが気になり、月曜日の夕方に再度ユーロスペースへ。観客は10人少々。オヤジが2、3人前の方にいたのは、NHKのヒマなプロデューサーだろうか?勉強熱心なのは結構だが、足を投げ出して態度がデカイ。

語り得ぬものについては、沈黙しなければならない。などとかっこいいセリフを吐ける身分ではないし(その言葉が誰のものかすら知らないという不勉強な輩は知った事ではない)、早く日仏に行かないとチケットがなくなっちゃうので、とりあえず事実を列挙する。

キャスト
http://www.bitters.co.jp/shisen/cast.html
・リュイ・リーピンが点滴の瓶を右手(だったよね?)に高く掲げ、一台目の戦闘機のところでカメラが一回転するショットから、二台目の戦闘機(!)の横を通り過ぎて、廊下に入り、階段の手前にさしかかったポイントで頭上のライトが点灯する、というセリフのない一連の歩行シーンの計算し尽くされた演出には、前回同様、激しく感動して、噛んでいたガムを落としそうになった。

・リュイ・リーピンがただ座って子供をなくした話をしているだけなのだが、その内容の巧みさと、背後で聞こえていたノイズが、三回鳴ると出航時間を意味する汽笛と分かった感動で、しばらく身動き出来なかった。

・チェン・ジェンビンの初恋の話も秀逸。鉄格子越しに、アイスキャンディーを二齧りした後、「別れようか」と切り出すと、「あなたが言ったんだからね。」というセリフも、凄いなぁと感心。続く「赤い疑惑」とバスケットボール場の演出にも感心しっぱなし。

ジョアン・チェンのメイクから始める演出も、また素晴らしい。あと、戦闘機のパイロットは、やはり24歳(24 CITY)で亡くなっていたが、死因はパラシュートを開くのに失敗したためだった。

ジョアン・チェンの話の後半、涙が一筋頬を伝ってゆくのだが、その涙が顎に到着したと同時に語り終えるというのは、目薬で後から足したものでなければ、いったいどういう奇跡なのだろうか。見ていて恐ろしくなった。

・チャオ・タオが、オフ・ホワイトのニュー・ビートルに乗ってリュイ・リーピンと同じく二機の戦闘機の横を通り過ぎていたことや、都市部の小金持のためのバイトとは実は経営者となったジョアン・チェンのような女のことではないかとか、リュイ・リーピンの生き別れた子供ではないかとか、見れば見るほど、各部が有機的に結びついているように思えて仕方なくなる。

・チャオ・タオの場合も、途中から背後の車の通行が嘘のように停止して、話が終わった途端に車の流れが再開するに至っては、もう笑うしかない。

・言うまでもないが、ショットごとの構図は、完璧なものばかり。

・さらには、工場のノイズとBGMとが連動している。DJのつなぎみたいに。

・写真家とフィールド・レコーディングのミュージシャンとDJと映画監督の四人分の才能と、決定的瞬間を逃さない選択眼とそれを呼び寄せる運を持ち合わせていないと、ジャ・ジャンクーを越えることは出来ません。
ついでにいうと、イーストウッドの半分の年齢の三十九歳です。
上映終了後、下戸なので炭酸を買って、飲み干しました。
夜道を歩きながら、映画監督だとしたら、今日で廃業宣言をするところだったと思いながら岐路につきました。
でも、その後2日ほど何のやる気も出ないくらい落ち込みました。

・不吉なほど完璧、という意味が、僕にも少し分かりました。

・しつこいようですが、見ていない人は、見た方がいいと思いますよ、人生のために。