The Glenn Miller Story/グレン・ミラー物語/Anthony Mann/1953

http://movie.goo.ne.jp/movies/PMVWKPD2770/index.html
Anthony Mannの映画を集中的に見ているが、彼の得意な少人数・低予算・西部劇などでないこうした音楽劇ですら、素晴らしい仕上がりになっている。グレン・ミラーのファンのJames Stewartがユニヴァーサルに持ち込んだ企画らしい。James Stewartがところどころピアノも弾いているのだが、本当に弾く事が出来ているように思える。少しは習ったことがあったのだろうか。いずれにせよ、監督と主演の二人のコンビ作の終盤のものだけに、盤石という感じだ。
妻役のジューン・アリソンも素晴らしい。最初、キャサリン・ヘプバーンかと思っていたのだが、違った(笑)。勉強が足りないなぁ。

以下のサイトによると、「魅力的なハスキー・ボイスと隣の女の子的な親しみやすさを売りにして男女問わずに息の長い人気を獲得し、アリソンのアイドルだったジンジャー・ロジャースは彼女を「全ての男性が結婚したいと望み、全ての女性が友達になりたいと望む女性」と評した。」とのことだ。
http://www.geocities.co.jp/hollywood/5710/j-allyson.html
それはそうだ。見終わるまでずっと、流石キャサリン・ペプバーンと思い込んでしまうくらい、ハリウッド黄金期の女優の存在感に圧倒されてしまった。少し容姿がいいだけで頭もからっぽで運動神経も鈍い男や女と「映画スター」とは、似て非なるものである。こんなにいい役者があっちにもこっちにもいて、音楽も脚本も素晴らしくて、つい懐古的になってしまう。二時間夢を見させるために必要なのは、つくづく映画に関わる人たちの「基本」の能力次第なのだと思い知る。それは、才能や技術や経験や知識といったものであるのだろうし、それこそが最も得難いものであることも分かるのだが。
ただ、演出や脚本といったものは、努力次第でレベルを上げることが出来るのではないだろうか。「予測不可能」を売りにする映画があるけれど、良く知られたストーリーと音楽を題材にしたこの作品にはそんなものはない。それどころか次に何が起こるか実に良く分かる演出ばかりだ。最後の、グレン・ミラーが楽団から離れて一人飛行機に乗り込むところの演出などは、現実の事故死を知る公開当時は世界中の人々にしてみれば、これで映画が終わるのだなという予感を抱いたことだろうし、半世紀を経て、彼の死因など知らない無知な僕ですら見ていて、あぁ、もう帰ってこないなと確信してしまう程丁寧な演出だ。(見ていない人のために書かないけれど)それでも僕は、ここ最近観たハリウッド映画のなかで一番のラブストーリーであり音楽映画だなと深く感動してしまった。メロディだけ知っていた「茶色の小瓶」にこんなストーリーがあったこと、そしてそれをヒロインとともに追体験できたこと。ジューン・アリソンが涙を浮かべてラジオから流れる曲に耳を傾けながら結婚10周年にジェームズ・スチュワートが送った茶色の小瓶を手に取るなんて、この題材を与えられたら僕だって真っ先に考えるくらいありふれた演出だ。突飛なアイデアではなく、適切な演出と脚本こそ、まずは重視すべき「基本」なのだと思うのだが。

映画というのは、適切な演出を適切に積み重ねてゆけばそれだけで素晴らしく濃密な時間を生み出すことが出来るということを、こうした古典的なフィルムがさんざん教えて来たはずだと思うのだが、最近の映画業界は、そんなことすら忘れてしまったようだ。予告編やCMを見ていると、何をどう間違ったらそんなことになるんだと思えてならない作品ばかりで、非常に疲れる。

明日は、オリヴィエ監督×Sonic Youthということで期待をしているが、上映後のライブは雨が降るそうだが、中庭でライブは出来るのだろうか?