閉館間際の新宿テアトルタイムズスクエアで『SHINE A LIGHT』を見た。

見たいなと思っていたが、予告編のスコセッシのはしゃぎぶりが何だかなぁという感じだったのと、さほどストーンズ・フリークでないことと、何より歌詞の表示がないことで、後回しにしていたら、いつの間にか公開が終わっていた。

そもそも、ロックを少し聞いているのであれば、ストーンズのアルバムは何枚か持っていて、ライブ映像も見た事があるものなので、今更ストーンズとスコセッシと言われてもなぁという気持ちもあった。

ただ、ズームしたときに、その演奏者の楽器の音が大きくなるらしいので、それならデカいスクリーンで見た方がいいかなと思い直していたところで、閉館する新宿テアトルタイムズスクエアでリクエスト上映をするというので、出掛けた。

テアトルタイムズスクエア閉館のお知らせ
http://www.cinemabox.com/schedule/times/index.shtml
残念です!!!


予告編
http://www.rrm.co.jp/gs/Shine-A-Light-Pre.htm

土曜日の10:30の上映開始の回にも関わらず、6割は客席が埋まっていて、女性も多かった。さすがストーンズ
演奏前のスコセッシのコントは、結構笑った。『カジノ』のジョー・ペシの忙しなさを思い出した。

余裕をぶっこいていたのはここまでで、1曲目の"JUMPIN'JACK FLASH"のキースの出だしのテレキャスターのカッティングを聞いて、椅子から転げ落ちそうになった。とんでもなく音がいい。
ちゃんと、フロントがハムバッカーのテレキャスターの音として、鳴っている。キャメラがキースに寄ればテレキャスターの、ロニーに寄ればアッシュ・ボディのストラトキャスターの音がより大きく聞こえる。アンプ直で弾いたとしても、ここまでギターの素の音を感じさせる録音にはならない。ライブ会場で出音されているので、会場の残響音や他の楽器の音と混ざるためである。ストーンズは、ワイヤレス・シールドを使っていた。また、"Same girls"などでは、うすくフェイザーをかけたりしていた。アンプ直ではないのである。
しかし、僕が聞いてきた過去のスタジオライブCDやDVD、あるいは見に行ったライブを含めても、ここまでクリアでオープンなギターの音が響くライブ・サウンドは初めてだ。全く理由が分からない。

尋常ではない事態に狼狽えながら、椅子に座り直したのだが、演奏が進むにつれて、驚きはさらに深まっていった。キースが曲ごとにギターを持ち帰るのだが、全部、それぞれの音がするのである。それどころか、ロニーのG&Lと思しき黒いテレキャスターを合わせると、合計5本のテレキャスターが出てくるのだが、全部違う音で鳴っているのである。

無論、個体ごとに異なる音がするオールド・ギターであり、同じモデルでもピックアップがシングルかハムバッカーかで出音は違ってくる。だが、通常のスタジオ録音の音源ですら、せいぜいレスポールストラトキャスターかの聞き分けがつく程度なのだ。ましてや、今回は、二人のギタリストは背後に数種類のブランドのコンボタイプのアンプを8基くらい置いているので、ギターごとにアンプを使い分けているか、複数を同時に鳴らしているのである。何より、これはライブであって、サウンドチェック音源ではない。にも関わらず、家でギターを弾いているときに聞く事が出来るような、濃密な質感のギターの音の、剥き出しの素肌に触れるようなダイレクトさなのである。

ミックのヴォーカルも、息漏れなどのノイズもなく、太く安定した音であり、チャーリー・ワッツのドラムも、サポートの黒人ベーシストのベースも、確固とした存在感を主張する音だった。

心底驚いたのは、バディ・ガイだ。顔面がアップになると、身じろぎせずに、首をかしげたままでギターを弾くという悪ふざけをしていて、70近いジジイのくせにやるな、と笑っていたら、例のバディ・ガイのトーンのストラトの音がして、そうだった、そうだった、ハーフトーンだよな、フロントじゃなくて、リアの、と納得して、ふと、俺はバディ・ガイがどのポジションのピックアップを使っているかなんて、知らないじゃないか、と気付いたのだ。知っているのは、自分でもほぼエフェクトなしでストラトを弾くから、どのポジションでどの音がするのかを分かっているからである。果たして、演奏の後半でちらっとピックアップのポジションが映ったのだが、やはりリアのハーフトーンであった。

ピックアップポジションの違いまで容易に判別出来る音源は、ギターマガジンの付録で時々付いてくる、ギターのサウンドチェックを想起させた。ギターの音をモニタリングすることを最優先として録音される音なので、ごまかしの聞かないクリアな音で録音をしている。だから、楽器同士の被りも極力抑え、マイクやコンプなどの色付けも殆どないようにしている。

しかし、これはライブ音源だ。
何故、ここまでの高音質に聞こえるのだろうか。
上映中に考えたのは、アンビエントをばっさり切っているのではないか、ということだ。もしくは、全部をライン録音しておいて、スタジオでリアンプしたものを再録音しているかだ。

通常のライブ音源では、それが、ライブの会場で耳にする音に近づけるために、他の楽器の音や会場の音響と合わさることで、「臨場感」が出る。

この映画の売りは、ズームアップしたら、その楽器の音が大きくなることである。その楽器の音だけを大きくするためには、その楽器の音以外の音は、不要である。

それを実現させるためには、それぞれの楽器を、正確にピンポイントで収音し、それをスタジオの卓上で再構築させ、フェーダーで上げ下げすることになるのだが、そんなことは普通のライブ音源でもやっていることなのである。しかし、今回ほどクリアでオープンな音にはならない。少なくとも、僕が過去に聞いて来た音源で、ここまで高音質だったものはない。

「ライブを最前列で見ているような臨場感」を広告で謳っていたが、実際にあの収録の現場で観客が耳にしていた音とは、全く異なる音像が構築されているのである。

この映画以後、臨場感を優先させるのか、それとも音のクリアさを優先させるのかによって、録音の段階から、全く異なるアプローチをすることを迫られるようになるのではないか。

一応、他の人の意見も確認しようと思って日本語の感想を検索したのだが、ストーンズ・フリークからギターマガジンでもおなじみのブルース・ギタリストの菊田俊介まで、音の良さに感心しているようだったので、高音質であることは間違いがないようだ。

気になったので、サンレコのバックナンバーを探したら、これがあったのでさっそく注文した。

http://www.rittor-music.co.jp/hp/sr/data/08121001.htm

・・・そんなスコセッシは、映画の録音/ミックスを担当した巨匠ボブ・クリアマウンテンに、信じられないほど過酷な要求をした。約1年半もの間、ロサンゼルス、ニューヨーク、トロント、ロンドンにある6つのスタジオを行き来しながら、曲によってはミックスを15回もやり直すことになった、このプロジェクトの模様を、ボブ・クリアマウンテンへのインタビューにより明らかにしていこう。

やはり、通常では考えられないようなサウンド処理を施しているようである。楽しみだ。

尚、DVDでは英語の歌詞字幕が付いているようだ。ピーター・バラカン、もとい、Peter Barakan先生の解説も付いているらしい。読んでみたいなぁ。

http://www.geneonuniversal.jp/movie/sp/shinealight/index.html